怪談
ある深夜、Mさんは地元の小さな居酒屋で飲んでいました。
その店はテレビや芸能人のグッズで飾られており、壁にはダチョウ倶楽部の写真やポスターがたくさん貼られていました。
どうやら店主が熱狂的なファンのようで、テレビから流れるのも昔のバラエティ番組ばかり。
特にダチョウ倶楽部が出演するシーンが繰り返し流れていました。
Mさんはふと、店主に話しかけました。
「こんなにダチョウ倶楽部が好きなんですね。」
店主は微笑みながら言いました。
「ああ、彼らは絶対に特別だよ。絶対にね。誰もあんなこと真似できないだろう?」
それから、店主は奇妙な話を語り始めました。
「実はね、この店には絶対に触っちゃいけないものがあるんだ。」
そう言って指差したのは、カウンターの奥にある小さな箱でした。
木製で古びており、鍵がかかっているその箱は、一見して何か大事なものが入っていそうでした。
「絶対に開けちゃだめだ。中にあるのは……まあ、見たら分かるさ。」
酒の勢いもあり、Mさんは好奇心を抑えきれなくなりました。
「何が入ってるんですか?」と聞くと、店主は真顔で言いました。
「ダチョウ倶楽部に関係するものだよ。でも絶対に触るな。開けたら絶対に後悔することになる。」
その言葉が逆に興味を煽りました。
店主が少し離れた隙に、Mさんはカウンターの奥へ手を伸ばし、鍵を壊してその箱を開けてしまいました。
中に入っていたのは一枚の古いビデオテープ。
ラベルには大きく赤い文字で「ダチョウ倶楽部・未公開」と書かれています。
Mさんは「これがそんなにヤバいものなのか?」と半信半疑で持ち帰り、自宅の古いビデオデッキにそのテープをセットしました。
映像が再生されると、最初はいつものダチョウ倶楽部のコントが映し出されました。
「どうぞどうぞ!」というお馴染みの掛け合いや、リアクション芸の数々。
しかし、数分後、映像は突然ノイズ混じりになり、奇妙な場面に切り替わりました。
そこにはダチョウ倶楽部のメンバーらしきシルエットが映っていましたが、彼らは一言も発しません。
ただ無言でカメラの方をじっと見つめています。
その目はどこか異様で、見つめられているだけで胸がざわつくような感覚に襲われました。
画面には何度も「絶対に笑うな」という文字が表示され、映像が進むごとにその言葉が次第に大きく、赤黒く滲むようになっていきました。
怖くなったMさんは再生を止めようとしましたが、リモコンも本体のボタンも全く反応しません。
映像の中でメンバーが徐々にカメラに近づいてくると、画面越しに聞こえるはずのない「絶対、絶対、絶対」という囁きが耳元に響き始めました。
その後、画面いっぱいに「絶対に見るな」と書かれた文字が表示され、電源が勝手に落ちました。
部屋の中は真っ暗になり、Mさんは背後に何かの気配を感じます。
「絶対に振り返るな」と心の中で念じながらも、恐怖に耐えきれず振り返った瞬間、画面で見た彼らの無表情な顔が、すぐ目の前にあったのです。
翌日、Mさんはその居酒屋に行きましたが、店は跡形もなく消えていました。
あの店も、あのテープも、一体何だったのか──今でもMさんは、どこからともなく「絶対」という声が聞こえてくる気がして、夜も眠れないと言います。
一口食べただけで幸せな気持ちになれることもあれば、懐かしい記憶を呼び覚ますこともある。
けれども、その味があまりに忘れられなくなったらどうでしょうか?
美味しさが執着に変わり、他の何も目に入らなくなるほど追い求めてしまったら……。
特に、深夜の食事にはどこか特別な雰囲気があります。
昼間の喧騒とは無縁の静けさの中で食べる料理は、普段よりも格別に感じられるものです。
しかし、その味があなたを支配するようになったら──それは本当に幸せな体験と言えるでしょうか?
今回お話しするのは、忘れられない味を求め続けた人の末路についての物語です。
その味を知った者がたどる運命を、あなたも少しだけ想像してみてください。